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ヒトにやさしくカビ特有に効果を示す新しい抗カビ剤の探索 (バイオメディカル研究センタ-/応用バイオ科学科 教授 飯田 泰広 )

ヒトに寄生して害をなすカビが問題となっています。抗カビ剤はヒトへの毒性が強く耐性菌も報告されているため、カビだけに効果のある新しい薬剤が望まれています。カビ特有の先端成長を評価してその抑制をする物質を探索する方法を開発しました。

バイオメディカル研究センタ-/応用バイオ科学科 教授 飯田 泰広

日本では、その気候的特性から、味噌や醤油、鰹節など日本の味を語るに不可欠な調味料の多くがカビを用いて製造されています。また、パンやお酒もカビの発酵によってつくられています。また、カビは代謝能が優れているため、キノコのように樹木に寄生や共生をして栄養を取る種もいます。一方、食品のみならず、お風呂や洗濯機、エアコンなど様々なところで生育して私達の生活に害を与えるものもいます。特に厄介なものはヒトに巣くうカビで、水虫のような体表で生育するものもいれば、体内で生育する深在性の真菌症もあります。かびは胞子を作って空気中を浮遊することもできるので、抗がん剤治療などで免疫力が下がる場合はカビによる日和見感染から守るために無菌室に入ることになります。ここで、カビはバクテリアとことなり、真核生物であり、植物よりもむしろヒトに近い生物であるため、カビの薬剤(抗真菌剤)の開発は難しく、現在4種類しかありません。そのため、ヒトへの毒性の低い新しい抗真菌剤の開発が望まれています。

1 GFP融合β-グルコシダーゼの局在を指標とした酵母の先端輸送評価法の構築

カビが生育する際は、先端に位置する細胞壁の分解と合成を行っており、私たちは、このカビに特徴的な先端成長に着目して、その阻害を行える物質の探索をしています。まず、先端生長を可視化するために、先端に輸送され細胞壁を分解する役目を担っているβ-グルコシダーゼという酵素に緑色蛍光タンパク質(GFP)を融合し、遺伝子組換えを行った酵母を開発しました。図1に示すように、生育するために出芽した先端部へ蛍光が局在していることが観察することができました(分裂する際の切断部位にも局在していることもわかりました)。そのため、既存のそれぞれ作用機作の異なる薬剤4種類を用いて影響を調べることにしました。

図2 各種抗真菌剤と膜輸送阻害剤作用時の先端輸送の評価

既存の抗真菌剤の作用機作は、AmB(アムホテリシンB)が細胞膜損傷、MCZ(ミコナゾール)が細胞膜の合成阻害、MCFG(ミカファンギン)が細胞壁合成阻害、5-FC(フルコナゾール)が核酸合成阻害です。いずれの阻害剤においても、先端生長への影響がなく、微小管の形成に作用して膜輸送を阻害するNDZ(ノコダゾール)では先端への局在が見られなくなることが観察されたため(図2)、開発した評価方法が適切に先端生長を阻害できる物質を探索することに応用できることが示唆されました。開発した評価方法を用いて、200種類以上の生薬抽出物を対象に先端生長へ与える影響を評価した結果、いくつかの生薬抽出物に先端生長を阻害する成分が含まれていることが示唆されました。例えば、図3に示すように、ケイガイ抽出物を作用させた際には先端へ輸送ができずにβ-グルコシダーゼを入れた小胞が細胞内に停滞していることが示されました。今後、このような輸送阻害をする成分を調べることで、ヒトに無害でカビ特有に効果を示す抗真菌剤の開発を目指していきたいと考えています。

図3 ケイガイ添加時の顕微鏡像

応用化学バイオ科学科 生物制御科学研究室(飯田泰広教授)紹介ページ
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