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極微小な中空部分に光を閉じ込める水平スロット導波路に関する研究 ―微細加工技術を駆使し、高感度な光センサを実現する―(先端工学研究センター/電気電子情報工学科 教授 中津原 克己)

快適で安全な生活をするために温度、湿度、気圧、光、音などを測る「環境センサ」や、自動車やロボットが安全に移動できるよう距離を測る「計測センサ」や物体の形状を測る「3Dセンサ」など、私たちの暮らしは様々なセンサに支えられています。
今回は、先端工学研究センターが実現を目指す、水平スロット導波路を用いたセンサの研究を紹介します。

中津原教授

先端工学研究センター/電気電子情報工学科 教授 中津原 克己

"光"を用いたセンサ素子の特徴

センサ素子は、私たちの暮らしの様々な場面で利用されています。快適で安全な生活をするために温度、湿度、気圧、光、音などを測る「環境センサ」や、自動車やロボットが安全に移動できるよう距離を測る「計測センサ」や物体の形状を測る「3Dセンサ」などに利用されている、身近な存在です。

"光"を用いたセンサ素子は一般に、機械的な機構がないために摩耗等による故障が少なく、信頼性の高いセンサが実現できます。また、火花や熱の発生の問題もないので安全です。医療分野などでは特定のたんぱく質や化学物質を検出するセンサなど、様々な診断に利用されています。

光には干渉現象や屈折、吸収、蛍光発光などの特徴があります。その特徴を利用して、様々な用途のセンサが開発され、多種多様な物質の検出などに使用されています。一例として、干渉現象を応用した共振器型の光センサの動作原理の概要を説明します。

共振器型光センサの動作原理

共振器型光センサは、2枚の反射板を向かい合わせて平行に配置した構造をしています。図1(a)のように2枚の反射板で挟まれた空間に入った光は多重反射し、出力側で位相がそろい共振状態となった光のみが出力されます。それ以外の波長の光は打ち消され、出力されません。例えば、空気中の二酸化炭素濃度が変化した場合、図1(b)のように反射板で挟まれた空間の屈折率が変化して共振状態となる条件が変わり、出力される光の波長も変わります。この仕組みを利用して、共振器内部の空間の変化を図1(c)のように波長特性の変化としてとらえることで、センサとして動作させることができます。

図1 共振器構造を用いた光センサの原理

図1 共振器構造を用いた光センサの原理

スロット導波路 -低屈折率の領域に光が局在する不思議な光の通り道-

光信号を伝える光ファイバは、図2のようにコアと呼ばれる高い屈折率のガラスの周りをクラッドと呼ばれる低い屈折率のガラスが包む構造をしています。全反射の原理により、高い屈折率のコアの部分に光が閉じ込められて、光が伝わっていきます。最近は電子回路の材料に使用されるシリコンをコアの部分に用いて光の通り道(シリコン細線導波路:図3)を作るシリコンフォトニクスという技術で、光の回路がつくられ、高速大容量通信の重要な部品として使われています。

このように光を伝送する技術、信号処理を担う光回路技術が進展してきた中で、"スロット導波路"という構造が注目を集めています。この構造は光ファイバなどと異なり、高い屈折率の材料に挟まれた"低い屈折率の部分‐スロット‐"に光を閉じ込めて伝えることができるという性質があります。

図2 光ファイバの光の伝わり方

図2 光ファイバの光の伝わり方

図3 シリコン細線導波路を用いた光回路

図3 シリコン細線導波路を用いた光回路

図5 スロット導波路の光強度分布

図4 スロット導波路の構造

図5 スロット導波路の光強度分布

図5 スロット導波路の光強度分布

先端工学研究センターでは、スロット導波路の特異な性質を利用して高感度な光センサを実現することを目指しています。

水平スロット導波路を用いたセンサ

低い屈折率の部分に光を閉じ込めるというスロット導波路の特異な性質は、最初、図4の(a)に示した垂直スロット導波路の構造で理論的に明らかにされました。私たちの研究室では、図4の(b)のように新たな構造の水平スロット導波路を考案し、実現に向けた基礎研究を始めました。この水平スロット導波路は成膜装置によって層構造が形成されるため、なめらかな境界面を持ち、極めて狭い領域に光を閉じ込めることができます。図5にシミュレーション結果例を示します。図5a)の垂直スロット導波路と同様に図5b)の水平スロット導波路の場合でも屈折率の低い中空スロット部分に高い光強度が得られることがわかります。この高い光強度によって物質との作用が強まり、大きな変化を得ることができます。

実際に、神奈川工科大学のクリーンルームにある反応性直流スパッタリング装置を用いて屈折率の高い五酸化ニオブ(Nb2O5)と、屈折率の低い二酸化ケイ素(SiO2)という材料を成膜しました。さらに、電子ビーム描画装置を用いて数百ナノメートルという微細なパターンを形成し、ドライエッチング装置などの設備を使って水平スロット導波路を製作し、基本特性を実証することに成功しました。図6に試作した水平スロット導波路(断面)の電子顕微鏡写真を示します。高精度な積層技術により約20nmの厚さで滑らかな表面を持つスロット導波路が形成できていることがわかります。

図6 試作した水平スロット導波路(断面)の電子顕微鏡写真

図6 試作した水平スロット導波路(断面)の電子顕微鏡写真

現在、水平スロット導波路を用いた数種類のセンサ素子の動作実証を目指しています。高感度なセンサ素子に必要な波長特性の変化を得るために、スロット導波路を用いた共振器構造と検出物質が通る中空スロットの形成技術を開発しました。図7a)に示すように、水平スロット導波路に微細な周期構造をもつ分布反射器(DBRDistributed Bragg reflector)を形成することで、光の共振現象を得ることができます。このDBR共振器全体を電子ビームレジスト(EBレジスト)という材料でカバーしたのち、電子ビーム描画装置を用いて必要な領域を描画(図7b))し、現像して、中空スロットをつくるための領域を確保します(図7c))。EBレジストが除去された部分のSiO2層をウェットエッチングで溶かしてしまうことで中空スロット部分を形成します(図7d))。

図7 中空水平スロットの製作工程

図7 中空水平スロットの製作工程

8に製作した中空水平スロット導波路の電子顕微鏡写真を示します。

図8 中空水平スロット導波路の電子顕微鏡写真

図8 中空水平スロット導波路の電子顕微鏡写真

9に示すDBR共振器型光センサは、中空のスロット部分に気体や液体など様々な物質を通すことができ、その物質の変化を共振特性の変化としてとらえることでセンサとして機能します。

図9 水平スロット導波路を用いたDBR共振器型光センサの構造(a)とシミュレーション結果例(b)

図9 水平スロット導波路を用いたDBR共振器型光センサの構造(a)とシミュレーション結果例(b)

今後の展開

水平スロット導波路を用いたDBR共振器型光センサの動作実証をはじめ、様々なタイプのセンサの検討を行っており、ごく微量の物質検出を可能にする高感度なセンサの実現に向けて研究を進めています。また、新たな試みとして、五酸化ニオブや二酸化ケイ素の薄膜積層技術とシリコン細線導波路の加工技術を組み合わせた水平スロット導波路の試作と特性評価を行っていて、試作素子の基本特性を得ることに成功しています。これらの成果をもとにシリコンフォトニクス技術を活用した集積型のセンシング回路の実現に向けた取り組みを行っています。複数のセンサを1つのチップに集積することで、複数の物質の一括検出や超高感度化を可能にし、低コスト化も期待できます。


▼本件に関する問い合わせ先

研究推進機構 広報担当

E-mailken-koho@ccml.kanagawa-it.ac.jp

 

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