先進eスポーツ研究センターの取り組み(先進eスポーツ研究センター/情報ネットワーク・コミュニケーション学科 教授 塩川茂樹)
いつでも・どこでも・だれでも楽しめるeスポーツを,情報通信技術の活用を通じて、より楽しめるようにする工夫をしていきます。
先進eスポーツ研究センター/情報ネットワーク・コミュニケーション学科 教授 塩川茂樹
はじめに
先進eスポーツ研究センターでは情報通信技術やスポーツ情報科学の活用によりeスポーツの価値を確立するための研究に取り組んでいます。昨年3月には地域の"つながり"をキーコンセプトとしたKAIT TOWN棟がオープンし、eスポーツに関する競技施設や配信施設が整いました(図1,図2)。これらの設備を活用して益々充実した研究を進めていく予定です。以下ではこれまでに行った研究事例を紹介します。
図1 競技設備
図2 配信設備図
対戦格闘競技の視線と競技力の関連検証
対戦格闘競技において、視線の動きは相手のキャラクタを的確に把握するため非常に重要です。一般に初級者は自分のキャラクタに視線を集中しがちなのに対し、上級者になるほど相手キャラクタに注目して相手の攻撃に備えると言われています。はたしてこの仮説は正しいのでしょうか。そこでプレイヤーの視線を可視化することで、対戦相手のキャラクタの軌跡と視線の軌跡を計測し、視線と競技力の関連について検証します。
視線計測実験
対戦格闘競技としてゲームAで実験を行いました。大学のeスポーツクラブのメンバーの協力のもと、様々な競技レベルの人に視線を計測できるアイトラッカーを装着していただき、実際に競技をしてもらいました。図3は実験のイメージです。赤丸で示された箇所は競技者の視線の位置で、青丸で示された箇所が相手キャラクタです。この図からは自分のキャラクタと相手のキャラクタの間付近を見ていることが分かります。
図3 検証実験イメージ
検証結果
図4と5は図3における赤丸と青丸の距離を数値化し、時間経過に対してどう変化したか示したものです。図4が上級者で図5が初級者です。点の位置が下にあるほど、相手キャラクタに近い場所を見ていることを意味します。図より上級者の点が下のほうに集中しているのに対し、初級者の点は上下に拡散しています。このことから仮説が正しいことが示されました。初級者は自分のキャラクタ操作に慣れてきたらなるべく相手キャラクタに注意を払うことが上達につながるようです。
図4 視線とキャラクタ間の距離(上級者)
図5 視線とキャラクタ間の距離(初級者)
今後の予定
eスポーツの研究はプレイヤーが普段の競技を通じて経験した「なんとなく感じる」や「そういわれている」といった事柄を客観的に検証することから始まることが多いです。例えば現在は対戦競技で「背景と似たような色のキャラクターを使うと有利である」という仮説がどの程度正しいのか視線計測等により検証しています。そして検証結果をもとに、競技の不公平性をなくすような環境開発へと研究課題を広げていきます。今後もより良いeスポーツ環境の構築を目指して研究を進めていきます。
▼関連するSDGs
3 すべての人に健康と福祉を
4 質の高い教育をみんなに
9 産業と技術革新の基盤をつくろう
11 住み続けられるまちづくりを