「高齢者の自立を支援し安全安心社会を実現する自律運転知能システム」の研究(先進自動車研究所 所長/自動車工学センター長 井上秀雄)
井上秀雄 先進自動車研究所 所長/自動車工学センター長
うまいドライバは、この先に何が起こるかを予測して安全に運転する。また馬は、乗り手が指示しても崖から飛び降りたりしない。これらの知性に比べ、自動運転は発展途上にある。本研究では、走行リスクを予測し安全でスムーズな運転に導く『運転知能』技術に取組んでいる。
クルマは高齢者の日常の足となっている。特に公共交通機関に恵まれない地方では欠かせない。しかし、今後20年で高齢ドライバは倍増するとみられており、加齢による身体能力の低下に伴う事故のリスクが高まっている。
こうした社会課題に対し、JSTの戦略的イノベーション創出推進プログラム(Sイノベ)の「高齢社会を豊かにする科学・技術・システムの創成」、2010年度に本産学連携プロジェクト(神奈川工科大学、東京農工大学、東京大学、トヨタ自動車、豊田中央研究所、日本自動車研究所)が採択され、井上教授がプロジェクトマネージャとして推進てきた。高齢者の運転能力の低下をサポートするセンサ技術、危険予知判断技術、危険回避技術などの研究開発と実証実験を通じて、事故を未然に防ぐ自律運転知能を持った安全運転支援システムを確立し、実用化につなげることを目標に、研究開発と公道での実証実験を実施してきた。
特に地方の道路は、現在の高速道路向けの自動運転技術だけでは対処できない。見えない陰からの歩行者の飛び出しや、前方の自転車の行動予測など、リスクを予測して対応、いわば「かもしれない運転」技術が必要である。そのために、100,000件を超えるヒヤリハットデータ(農工大保有)からの情報モデルとポテンシャルフィールドを用いた物理モデルからリスクを予測している(図1、図2)
図1 走行リスク予測制御の階層構造
図2 リスクポテンシャル物理モデルによる最適目標経路生成技術
また、人間・機械協調運転技術(Shared control)では、熟練ドライバ並みの運転能力を持つシステムが、高齢ドライバの運転能力の低下を見て、支援量を適切に制御する構造になっている(図3)。更に、廉価な環境認識技術にも力を入れた。交差点等の停止位置の認識精度では大変良い結果が得られている。これらの技術は、近い将来、運転支援、自動運転に必要な技術になると想定される。
図3 人間機械協調制御(Shared control)
うまいドライバは、この先に何が起こるかを予測して安全に運転する。また馬は、乗り手が指示しても崖から飛び降りたりしない。これらの知性に比べ、現状の自動運転、運転支援はまだ発展途上である。本プロジェクトでは、クルマがカメラ等で走行環境を見て、ヒヤリハットデータの様な経験知識からリスクを予測し、安全でスムーズな運転に導く『運転知能』を開発してきた。本研究をもとに『運転する楽しさあり、安全安心で頭の良いクルマ!』が近い将来、登場するであろう。
▼関連するSDGs
3 すべての人に健康と福祉を
8 働きがいも経済成長も
9 産業と技術革新の基盤をつくろう
10 人や国の不平等をなくそう
11 住み続けられるまちづくりを
15 陸の豊かさも守ろう
16 平和と公正をすべての人に