燃焼反応を新たな視点で見直すことで地球環境問題に挑戦する研究(応用化学科 大庭武泰准教授)
火力発電所で発生する二酸化炭素を分離する技術を開発することで、地球温暖化問題の解決を目指しています。
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応用化学科 大庭武泰准教授
温室効果ガスである二酸化炭素は、炭素を含む物質が燃えることで発生しますので、地中から掘り出した化石燃料(天然ガス、石油、石炭)を燃やすことが地球温暖化の大きな要因の一つとなっています。
しかし、人類が活動するには大量のエネルギーが必要ですので、今すぐに化石燃料を燃やさないようにすることはできず、太陽光発電や風力発電といった再生可能エネルギーが大量に利用できるまで待つ必要があります。待っている間にも毎日大気中に二酸化炭素が放出されてしまうので、なんとか地中に埋めよう(貯留)という計画があります(一部実施中)。例えば、地中にある水を含む地層に二酸化炭素を溶かしこんだり、天然ガスを取り出す代わりに二酸化炭素を注入することができます。
この貯留を行うには純度の高い二酸化炭素が必要です(混じり物があればその分貯留できる量が減ってしまいます)。しかし、火力発電所では化石燃料を空気で燃やしていますので、二酸化炭素だけではなく大量の窒素も排出されます(空気の約8割が窒素なので)。
では混じっている二酸化炭素と窒素を分離するにはどうすればよいでしょうか。すでに、二酸化炭素だけを吸収する特殊な溶液と混ぜる方法が確立されています。ただし、吸収した後の溶液から二酸化炭素を回収するには加熱が必要で、エネルギー使われます。ということは余分に化石燃料を使うことになり、二酸化炭素の分離はできてもその量が増えてしまうことになります。
そこで考え出されたのがケミカルループ燃焼法という燃焼方法です。まず、燃焼反応をそのままにしておくとどうしても窒素が混じるので、空気ではなく酸素だけで燃焼させることにします。しかし空気から酸素だけを取り出すにはエネルギーを使ってしまうので、例えば酸化鉄(鉄さび=鉄+酸素)が持っている酸素を使うことにします。化石燃料と酸化鉄を混ぜて温度を上げると、酸化鉄中の酸素と化石燃料が反応し、最終的には酸化鉄は鉄に還元されていきます。この反応で出てくる排気は二酸化炭素と水蒸気だけなので、大気か海水で冷却して水蒸気を液体の水にすれば純粋な二酸化炭素が得られます。その後、還元された鉄を別の反応器に運んで空気と反応させると発熱反応が起きますので発電できるわけです。この反応では主に窒素が排気として出ていきます。(なお、この発熱反応を緩やかに起こしているのがおなじみの使い捨てカイロです。)
このように、これまで当たり前で工夫のしようがないと思われていた燃焼反応を、新しい視点で見直すことで、余計なエネルギーが不要な二酸化炭素分離法が生み出されたわけです。現在このケミカルループ燃焼法の研究は、EU、アメリカ等でプロジェクトが進行中で、当研究室でもさまざまな研究テーマ(酸化物の探索、装置構造の研究、さまざまな燃料への対応など)に取り組んでいます。