二酸化炭素で環境問題を解決する!? ―超臨界二酸化炭素によるマイクロプラスチック分別の研究― (先端工学研究センター/工学部 応用化学生物学科 准教授 大庭 武泰)
超臨界状態の二酸化炭素は不思議な性質を持っています。その不思議な性質を環境問題の解決に使いたいと考え研究を進めています。今回はマイクロプラスチックの問題を解決するために行っている研究を紹介します。
先端工学研究センター/工学部 応用化学生物学科 准教授 大庭 武泰
はじめに―マイクロプラスチック問題
近年、海や空気中など、環境中に長期間漂い続けるマイクロプラスチックが問題となっています。マイクロプラスチックとは、大きさ5mm以下の小さなプラスチックの総称です。
マイクロプラスチックは一次マイクロプラスチックと二次マイクロプラスチックに分類されます。一次マイクロプラスチックには、歯磨き粉や洗顔料のスクラブ材として使用されている数ミクロン~数百ミクロン程度の、目には見えないビーズ状のプラスチック原料(マイクロビーズ)などが分類されます。レジ袋やペットボトルなどのプラスチックごみが、紫外線や海の波などによって劣化して壊れ、5㎜以下の細片状になったものは二次マイクロプラスチックに分類されます。
マイクロプラスチックは自然では容易に分解されないため、魚類や鳥類の体内に存在していることも確認されています。
研究のねらい―密度に着目
プラスチックと一言でいっても、レジ袋であればポリエチレンやポリプロピレン、ペットボトルであればポリエチレンテレフタラート(PET)と種類が異なり、密度も異なります。
例えば、レジ袋の原料となるポリエチレンやポリプロピレンの密度は約0.9 g/ml、家電や日用品などの原料となるABSは約1.0 g/mlです(表)。
表 プラスチックの種類と密度
プラスチックの種類 | 密度[g/ml] |
ポリエチレン、ポリプロピレン | 約0.9 |
ABS、ポリスチレン | 約1.0 |
ナイロン | 約1.1 |
先端工学研究センターではプラスチックの密度の違いに着目し、簡単な装置でマイクロプラスチックを分別すべく、研究を進めています。
研究開発事例-分別のカギは「超臨界二酸化炭素」
分別のカギとなるのが「超臨界二酸化炭素」です。私たちが二酸化炭素を目にする機会としてはドライアイス(固体)があります。放置しておくと炭酸ガス(気体)になりますが、実は圧力や温度を変えると液体にもなります。さらには温度を約31℃以上かつ圧力を約7.4MPa以上にすると、気体でも液体でもない超臨界状態になります(図1)。
図1 温度と圧力による二酸化炭素の状態変化
超臨界状態の二酸化炭素はさまざまな特別な性質を持つようになり、少しだけ圧力を変えると大きく密度が変化します。この密度の変化をプラスチックの分別に活用します。原理は単純な話で、密度が小さい物質が浮き、密度の大きい物質が沈むため、超臨界二酸化炭素の密度を変えていき、浮くものと沈むもので分別するわけです。
実際に装置を作製して実験したところ、狙い通りに分別できるものとうまくいかないものがあることが分かりました。うまくいかないものを詳しくみてみると、超臨界二酸化炭素との間で作用が起き、マイクロプラスチックが膨張していることが分かりました(図2)。
図2 実験前と後とでの発泡ポリスチレンの様子
今後の予定
今後は、超臨界二酸化炭素によってマイクロプラスチックが変化することを利用して、さらに高性能な分別装置を開発したいと考えています。