太陽熱を有効利用できる上部集熱式熱サイホンに関する研究 ―シミュレータを開発し、研究のコスパとタイパを上げる― (環境科学技術研究所/機械工学科 教授 川島 豪)
地球温暖化を防ぐためには、燃焼時に二酸化炭素(CO2)を排出する石油などの化石エネルギーではなく、太陽光などの再生可能エネルギーの有効利用が欠かせません。環境科学技術研究所では、太陽の熱を利用する太陽熱集熱器「上部集熱式熱サイホン」に注目し研究を進めています。
環境科学技術研究所/機械工学科 教授 川島 豪
太陽エネルギーの利用が地球温暖化を防ぐ
今年の夏は、いつも以上に暑いと感じた人も多かったのではないでしょうか? 実際、2023年7月の世界の平均気温の基準値からの偏差は、+0.62℃となっています。これは、1891年の統計開始以降、最も高い値です(※1)。
地球の持続的な発展を実現するためには、地球温暖化を防ぐ必要があります。そのためには、地球温暖化の要因と言われているCO2などの温室効果ガスの排出抑制が急務となっています。CO2の排出を抑制するためには、石油・石炭・天然ガスといった化石エネルギーではなく、太陽光・風力・地熱といった再生可能エネルギーを有効に利用しなくてはなりません。
再生可能エネルギーの中でも、地球上どこにでも降り注いでいる太陽エネルギーの有効活用は重要な課題です。太陽エネルギーの有効活用としては、太陽光パネルによって太陽エネルギーを電力に変換する太陽光発電(変換効率約20%)がよく知られています。他にも、太陽の熱を利用してお湯などを作ることができる太陽熱集熱器(変換効率約50~60%)などがあります。
『令和4年度エネルギーに関する年次報告(エネルギー白書2023)』によると、2021年度の世帯ごとの用途別エネルギー消費の内、28.7%が給湯となっています(図1)(※2)。給湯などの低温の熱エネルギーに関しては、太陽光発電より変換効率の高い太陽熱集熱器を利用したほうが太陽エネルギーを有効利用できます。
図1 2021年度の世帯ごとの用途別エネルギー消費
省エネルギーな制御システムが不可欠
環境科学技術研究所では、外部動力を使わずに集熱した比重の軽い温水を建物の屋上から地上に循環させることのできる「上部集熱式サーモサイホン」という太陽熱集熱器に注目しました(図2)。
図2 サーモサイホン
しかし、上部集熱式サーモサイホンにはいくつかの解決しなければならない問題があります。その1つが、管内の作動流体の流れが間欠的になってしまう問題です。作動流体の循環は、作動流体が太陽の熱によって沸騰することで生じる蒸気の泡の浮力により生じます。このとき、浮力が足りずに作動流体が流れなくなると泡が一カ所に留まり、その部分が空焚き状態になり太陽熱集熱器付近の管は熱せられて高温になり、壊れやすくなってしまいます。
問題解決の方法として、上部集熱式サーモサイホン管内の圧力を下げることで作動流体の沸点を下げ、間欠流を連続流に変える安定化に目途を付けました。しかし、管内の圧力を下げるのに真空ポンプを使用するため、多くの制御電力が必要となってしまいます。上部集熱式サーモサイホンにおける外部動力を必要としないという特徴を活かすには、省エネルギーな制御システムを開発する必要があります。
シミュレータで効率的に制御方式を確立
どのような制御方式であれば少ないエネルギーで間欠流を連続流に変えられるかを検討するには、実験装置で実際に試す必要があります。しかし、様々な条件で実験するためにアクチュエータやセンサなどの変更が必要となり、多くの費用がかかってしまいます。
そこで、制御装置を含めた上部集熱式サーモサイホンのシミュレータを開発しています。シミュレータを使いコンピュータ上で実験することで、短時間でいろいろな制御方法を試すことができ、有効な制御方法を効率的に見つけられると考えています。
今後は、シミュレータにより省エネルギーな制御方式を確立してから、実際に実験装置を作って検証し同じ結果が得られるか確かめる予定です。
※1 国土交通省 気象庁サイト「世界の月平均気温」より