色々変化で新技術への夢が広がる! アズレン誘導体の魅力(新物性化合物合成研究所 研究所長/工学部 応用化学生物学科 教授 山口 淳一)
科学や医学の発展に伴い新たな問題・課題が発生し、その問題・課題を解決するために新しい技術の開発が求められています。求められる新しい技術を生み出すためには、新しい機能を有する化合物の創製が欠かせません。新物性化合物合成研究所では「アズレン」に注目し、新しい機能を有する有機化合物の合成に取り組んでいます。
新物性化合物合成研究所 研究所長/工学部 応用化学生物学科 教授 山口 淳一
アズレンは「うがい薬」や「胃潰瘍の薬」として使われてきた
カモミールなどのハーブから蒸留によって採れる精油は、しばしば鮮やかな青色となることが昔から知られていました。有機化学者は青色の成分を分離し、構造を突き止め、アズレン(Azulene)と名付けました(図1)。
図1 アズレン
アズレンは、炭素原子(C)と水素原子(H)のみからなる多環芳香族炭化水素です。
多くの炭化水素が無色ないし白色ですが、アズレンは美しい青色をしています。
その後、アズレンを基本骨格とするアズレン誘導体は「消炎効果」を示すことから、「うがい薬」や「胃潰瘍の薬」として用いられるようになりました。
また、ある種のアズレン誘導体は、半導体に似た性質を示すことから電子工学材料として、新しいアズレン誘導体の合成が試みられています。
アズレン誘導体合成研究の狙い
美しい青色が目を惹くアズレンですが、その性質も大変興味深く、様々な分野に応用されています。
抗がん活性を示す!
アズレンが消炎効果を示すことは昔から知られており、うがい薬や胃潰瘍の薬として用いられてきました。最近では、抗がん活性を示す化合物がある事が分かり、当研究所でも各種アズレン誘導体の評価を行っています。
例えば、がん細胞を各種アズレン誘導体に浸して活性を調べる実験を行い、2021年に、分子および細胞生命科学に関するオープンアクセスジャーナル『FEBS Open Bio』に論文を発表しました。
有機半導体になる?
現在の半導体は、シリコン(Si)を材料とした無機半導体が一般的です。ただ、コスト、環境負荷、化合物の多様性、作りやすさなどの観点から、有機半導体への期待が年々高まっています。
アズレンは電子が動きやすい構造、つまり電気が流れやすい構造をしています。この構造から有機半導体の材料としての利用が検討されており、実際にアズレンを基盤とする有機半導体の創出事例も報告されています。
最新のアズレン化合物と今後の展開
ここからは、神奈川工科大学 新物性化合物合成研究所で作られた、世界初のアズレン化合物たちの話をします。
色の変化が美しい-単結合でつながるアズレン化合物
鈴木-宮浦クロスカップリング反応(※)を利用し、ピリジン化合物との置換反応を試みた結果、新しいアズレン化合物「アズレニルピリジン」の合成に成功しました。新化合物の一つの特徴として、中性溶液と酸性溶液では色が異なるなど新しい発見がありました(図2)。
図2 「アズレニルピリジン」に酸を加えると色が変化することが分かった
今後は、この新化合物の電子工学材料としての可能性を探索していきます。
ギネス記録に挑戦?-縮環したアズレン化合物
図1で示したように、アズレンは炭素原子が7つの環と5つの環が縮環でつながった構造をしています。このつながりを7-5-7-5...と真っすぐにつなげることは難しく、現時点では7-5-7までしか達成されていません。7-5-7-5とつなげることができれば、ギネス記録になります。(申請はされていませんが...)
現在、ギネス記録を目指して4つめの環を構築中です。少し苦戦してますが成し遂げられるよう奮闘中です(図3)。
図3 縮環したアズレン化合物の合成でギネス記録に挑戦!?
有機化合物の美しさや可能性、新しい化合物を合成する醍醐味が伝わったでしょうか?
更に詳しく知りたくなった人は、以下の記事もぜひご覧ください。
新しい化合物の合成に着目した研究については、こちらの記事をご覧ください。
※ 異なる有機化合物の炭素と炭素を、触媒を用いて結合させる反応をクロスカップリング反応と呼びます。特に、触媒に有機ホウ素化合物を用いるものを鈴木・宮浦クロスカップリング反応と呼んでいます。この反応の開発者である北海道大学の鈴木章名誉教授は業績が評価され、2010年にノーベル化学賞を受賞しています。
▼関連するSDGs
3 すべての人に健康と福祉を
9 産業と技術革新の基盤をつくろう