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脈管のダイナミズムを制御する生理活性物質を病態治療に応用する(臨床工学科/健康生命科学研究所 教授 馬嶋 正隆) 

病態解析に立脚した創薬シーズ開発研究

臨床工学科/健康生命科学研究所 馬嶋 正隆 教授

病気の進展に役割を持つ生理活性脂質(アラキドン酸代謝物)およびペプチド(神経ペプチドCGRPなど)の研究をしてきた。これら物質は、生体内では多彩な機能を発揮するが、特に既存の脈管から新しく芽をふくように新しい脈管が形成される生命現象である血管新生、リンパ管新生を制御する役割を解析してきた。これらの物質は、生体内ではそれぞれの受容体タンパクに作用して、物質ならではの特徴ある活性を発揮する(図1)。ノックアウトやトランスジェニックといった遺伝子改変動物を用いて、受容体シグナリングの役割を解析してきた。血管新生やリンパ管新生という生命現象は、"炎症"や"がん"など、多彩な病態の進展に関与する。疾患に悩む患者さんが恩恵を得なければ意味がないという信念のもと、病態解析に立脚した創薬のシーズ(薬のもと)を社会に発信することを心掛けてきた。

血管新生は、既存の血管の基底膜の分解から新生血管の形成に至る一連の生体反応である(図2)。血管新生は各種成長因子で調節される(図2)。生理的には発生の過程、性周期における子宮内膜の増殖、創傷の治癒などの際に、病的な状況ではリウマチのような増殖性の炎症、がんの増殖などの場合にみられ、生体内で重要な生命現象である(図3)。

アラキドン酸代謝物の一つであり、体の中で刺激に応じて生成されるプロスタグランジン(PG) も血管新生を増強することを明らかにしてきた。サイクロオキシゲナーゼ-2という酵素が増殖性の炎症巣に誘導され、これによって生成されたPGI2あるいはPGE2という代謝物が血管新生を増殖することを炎症モデルを用いて調べてきた。アラキドン酸という1つの材料から生成されるPGとその受容体には多様性があり、病態に応じ使い分けられていると考えられる。この増殖性の変化で見られる血管新生に、実際にどのPGがどの受容体サブタイプを介して増強作用を持つか否かについては全く知見がなかった。我々は、8種類あるPG受容体ノックアウトマウスを用いて検討を行った。実際の動物におけるがん依存性の血管新生やがん増殖に関与するPGおよびその受容体の特定を行うことができた。PGE2のEP3という受容体が重要であることを見出した。特にがんではいわゆる「ストローマ」と呼ばれるがん周囲に形成される宿主由来の組織(慢性炎症巣と似た組織)におけるPGE2による血管内皮増殖因子vascular endothelial growth factor (VEGF)の発現増大が重要であることを見いだした。

一方、リンパ管の存在は100年以上前から明らかにされていたにもかかわらず、血管系に比べ研究が遅れ、しばしば『未知なる組織』と呼ばれる。本格的に研究が進みはじめたのはここ20年ほどであり、現在も国内外で次々に新しい発見が続くホットな研究領域である。全身にくまなく張り巡らされたリンパ管は、末梢組織で血管から漏れ出した血漿成分をリンパとして、循環系に回収している。炎症時には、血漿の漏れ出しが増大し、リンパの流れが増加する。炎症時には、マクロファージ上のPG受容体シグナルによるリンパ管新生因子(VEGF-CおよびD)の産生亢進がおき、リンパ管新生が増強されることを見出した。また、下肢あるいは上肢のリンパ性浮腫をもたらすがんの外科的治療に伴うリンパ節郭清マウスモデルを開発し(図4)、PGE2がリンパ管新生とリンパ流の増加を介して浮腫を解消することを報告した。PG受容体を刺激する薬物が、浮腫治療へ応用できることを示唆する成果を見出した。

日本での死因の一位であるがんにおいてリンパ行性転移は患者さんの予後の重要な決定因子である。リンパ節転移陽性の患者においては現代の集学的治療によっても治療効果はいまだ満足できる程度とは言えない。がんのリンパ行性転移を制御できれば患者に対する恩恵は計り知れない。がんのリンパ行性転移についての研究を進めてきた。PGE2ががん周囲でのリンパ管新生をEP3/4のシグナルを用いて増強させていること、所属リンパ節への転移を助長する前転移ニッチェ(がんの転移増殖を助ける"ゆりかご"のようなものが転移が成立する前の早い段階から準備されている)がPG依存的に形成されることを見いだした(図5)。

さらに我々の研究グループは、脂質代謝にも注目して研究を進めている。現代社会においては肥満の原因となる生活習慣病の患者数は多く、保険医療を圧迫している。脂肪吸収で重要な腸には、多くの絨毛がある。腸管上皮から吸収された脂肪は、絨毛の中心に存在するリンパ管の1種である乳糜管に取り込まれ、最終的に静脈に流入する。乳糜管に付着する平滑筋の収縮がリンパ管を介した脂肪吸収を制御することがわかってきた。我々は、生理活性脂質および神経ペプチドの消化管での機能調節機構を長年調べてきた。生理活性脂質、ペプチドによる乳糜管の機能制御が脂質の吸収を制御し、代謝疾患の画期的な治療法になる可能性が高い。

PGは従来から、平滑筋の収縮、血栓形成(血小板凝集)や血圧降下など、秒単位で起きるいわば即時的な反応を引き起こす脂質と考えられてきた。しかし、我々の検討からは、サイトカインや成長因子といった活性タンパクの転写を高めることで有意な作用を発揮している場面が少なくない。転写因子様の作用が重要であることを見出すことができた。

研究グループの一連の成果は、JEM、JCI、PNAS、Nature Medicine、Cancer Cellなどのトップジャーナルに300報近い論文として発表してきた。いずれも、病態解析に立脚した創薬のシーズを提供することができたと自負している。サイエンスの素晴らしいところは、誰でも論文の投稿という行為で、新しい知見の真価を世に問うことができる点であろう。取り組む意欲次第で、皆に等しいチャンスがある。

病態治療研究室(馬嶋研究室)紹介ページ
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