クラウドインフラを用いた8K超高精細映像処理技術の開発
はじめに
最先端の超高精細映像技術として、8K映像がある.これは、図1に示すようにハイビジョンの16倍の空間解像度(7680x4320)を持つ映像で、目の前で見ると正にそこにいるような臨場感がある。このような高精細な映像を放送用のコンテンツとして利用するためには、その上にテロップやコンピュータグラフィックス(CG)を重ねて合成する編集作業が必要となるが、情報を欠落させないようにするためには、撮影された映像をそのまま非圧縮の映像として扱う必要がある。通常、映像を電波やInternetで配信する時には、圧縮されたものが送られる。また、医療の分野でも8K超高精細映像を扱って、遠隔診断をする試みがされているが、その場合も情報を欠落させないように非圧縮の映像が使われている。
8K超高精細映像を非圧縮のまま実時間で伝送しようとすると、毎秒48Gbpsの速度が必要となる。クラウドサービスで扱う事ができれば、8Kの編集をしたい時だけ、このサービスを利用できる。本研究では、放送分野・医療分野向けに、8Kの高精細映像素材の10Gbpsを超える広帯域ストリームデータをリアルタイムで自在に扱う事ができるクラウド環境をネットワーク上の様々な計算機群が協調するアーキテクチャにより提供する事を目指している。
技術概要
本研究では、大きく分けて2 つの技術的アプローチをしている。1 つが、「映像処理プラットフォーム技術」で、もう1つが、「ネットワーク・クラウド制御コア技術」である。非常に広帯域のデータを扱うので、アプリケーションである映像処理技術とネットワークやクラウド側の制御技術が、互いに連携して動作する環境を作る必要がある。
映像処理プラットフォーム技術
大容量8K 映像データを1台の装置で伝送できる機器はない。そのため、まず8K 映像を縦横に分割して、図2 に示すように、4K 映像(1 台で6Gbpsを伝送可能)をIP で送出する装置を複数並べて並列に伝送を行なう。図2 は、4 台使ってトータル24Gbpsの8K-DG 方式というデータを伝送しているマルチレーン伝送の例である。
マルチレーン伝送においては、細かい単位に分割されたデータ群の時間的なタイミングを正確に合わせる(同期という)ことが重要である。このため、図3 に示すように送信元から、ディスプレイ表示部に至るまで、色々なところでの正確な同期処理が必要となる。
クラウドを用いた超高精細8K 映像配信サーバ技術は、NICT(情報通信研究機構)の北陸StarBED センターにあるノードを借りて、その上にクラウド環境を構築している。複数のサーバを並列に同期運転させる事で、24Gbps や48Gbps のリアルタイム蓄積や配信が可能なサーバを実現している。図4 は、1ノードあたり3Gbpsの処理ノードを16 台完全に同期運転させることで、48Gbps の8Kフル解像度対応の映像蓄積配信サーバを実現した例である。
ネットワーク・クラウド制御技術
映像プラットフォーム技術を支えるために、図5に示すようにアプリケーションの動作に必要なネットワークの帯域やクラウド側の処理能力をリソース管理サーバが予め認識する。リソース管理サーバでは、ネットワークやクラウドのリソースを高精度に監視し、クラウドのCPUリソースが足りなくなってしまった場合には、空きリソースを持つノードに処理を変更するようなフィードバック制御を行う。
ネットワークのリソース監視のために、高精度ネットワークモニタである「8K映像トラヒックメータ」を作成した。図6に示すようなメータ表示と秒単位の心電図のような表示機能によって、現在のネットワークリソース状況を高速に表示する事ができる。
実証実験
実証実験の1つの例を示す。国内最大のネットワーク技術展示会であるInterop Tokyo 2017 が6 月に幕張メッセで開催され、本学も独自ブースで展示した。この時には、StarBED(北陸)-大阪-東京-神奈川工科大を接続した学術ネットワークと東京(大手町)-会場間にNTT コミュニケーションズ様から提供された商用ネットワークOCNを使い、図7 の構成で広域接続を行った。その環境を用いて、以下の技術を実験展示した。この結果、本技術の優位性が認められて、Best of Show Award の「ShowNet デモンストレーション部門」審査員特別賞を受賞した。
今後の展開
今後も引き続き、超高精細映像素材を用いた8K クラウド映像製作ワークフローの確立、マルチメディア研究との連携による新たなメディア製作手法の確立の研究開発を積極的に進めていく。