研究思考を持った技術者を育てる

KAIT

研究室教育

神奈川工科大学では、社会で活躍する「研究思考を持った技術者」の輩出を、重要な教育目標としています。 そのために教員が注力しているのが「研究室教育」です。 社会人力や人間力を伸ばすための、各研究室の工夫や取り組みの一部をご紹介します。

01

自分で決め、自ら動く経験を、

すべての学生に

工学部 応用化学生物学科
分子機能科学研究室

小池 あゆみ教授

小池先生は、傷ついたタンパク質を再生させるタンパク質、シャペロニンの研究者だ。 熱ショックなどで立体構造が崩れてしまったタンパク質に働きかけて、もとの構造に戻す働きをもち、 1つのシャペロニンが数百種類ものタンパク質を修復しているとも言われている。 小池先生はその作用機構の解明と並行し、工学的考え方を取り入れシャペロニンを体内における物質の運び屋として活用する先進的な研究も行う。 研究室のモットーは組織力。1人が壁にぶつかっているとき、他のメンバーが自然と手を差し伸べ乗り越える。 学生と教員が一丸となって成果を上げる研究室だ。

自分の意見をもち、
発信すること

学生は自らの研究室について「自分の考えで主体的に動くことができる場所」と表する。 実験計画は、教員からの指示ではなく学生が起点となったやりとりから生まれる。 先輩のノートや先行論文を鵜呑みにするのもNG。 自分なりの問いを持ち「自分はこれを明らかにするために、この条件で実験をやってみようと思う」と、 先生の目を見て堂々と意見を言えるようになるまで、小池先生は GO サインを出さない。 学生たちは最初は戸惑い、なかなか自分で決めることができない。 しかし、「学生たちに意見がないわけではないんです」と小池先生はいう。 学生たちは、これまでの人生の中で、意見を求められたことが少なく、 それを表明して良いものかどうかが分からなかっただけなのだ。 小池先生との対話の中で、研究室にきて初めて「自分の意見って言っていいんですね」と気づく学生もいる。

自信を取り戻す瞬間を
逃さない

学生の中には、第一志望の大学に落ち「私なんか ...」と自信を喪失した状態で入学してくる学生もいる。 話を聞くと、中高の内申点に囚われるあまりに、教師や保護者の顔色をうかがい続けてきた過去や、 進学校で落ちこぼれて「あなたには無理」と言われてしまった過去を語る。 そんな学生に対しても小池先生は、研究室の中で自分の意見を述べるよう、根気強く接する。 そしてある瞬間、学生はスイッチが入ったように顔つきが変わる。 それは、自分の意見が認められたとき、論文の輪読がうまくいったとき、対話の中で自分の強みを見つけたときなど、ほんの小さなきっかけだ。 この瞬間が、学生全員に訪れるよう、小池先生は学生への指導に全身全霊であたっている。

学生も先生も
「フラット」が礼儀

小池先生は、研究を通した教育活動の特徴は「フラットであること」だという。 研究には、先輩と後輩、教員と学生、上司と部下、親と子などの立場や肩書は一切関係ない。 学会にいけば、どんなに歳が離れていようが相手が偉い先生だろうが平等であり、研究成果について対等に議論することができる。 それが文化であり、マナーである。普段の生活では、教師や保護者という相手の立場や顔色を伺って、 言いたいことを飲み込む場面もあるかもれないが、研究の世界ではそれは御法度であり、相手に対して失礼にあたるのだ。 こういった研究経験を通して、学生は研究室の外でも堂々と自分の意見を言えるようになり、自然と力と自信を身につけていく。

人生を乗りこなす
力をつける

自信を喪失したが、数ヶ月の研究活動を経て志望する企業に就職、家族からも認められて自信を取り戻した子。 会社でも先輩に対して自らの意見やアイデアを発信し続け、社長賞をとったと連絡をくれる子。 そんな小池先生の研究室には、様々な企業からの人材のオファーも多く舞い込むようになり、学生の就職までコミットできる体制が整ってきた。 ペーパーテストは得意でなくともマニアックな探究心を持っている、キラリと光るものがある、 そんな既存の指標では評価されにくい生徒にこそ、神奈川工科大学に来てほしいと小池先生は語る。 「学生たちの人生がハッピーであるように、精一杯できることをやる。そしてたくましく生きていける人になってほしい」。 それが小池先生の願いだ。

このインタビューは、中高生・先生の研究活動を大学・企業で応援する『教育応援2023年秋号・Vol.59』(リバネス出版)に掲載された記事を、出版社の許諾を得て一部改変したものです。

02

社会に出てからも、

幸せにはばたき続けるために

工学部
電気電子情報工学科 電気応用研究室

瑞慶覧(ずけらん) 章朝教授

「空気をきれいにしたい」という瑞慶覧先生は、 電子やイオンを用いて、空気中の有害物質やウイルスを浄化する研究や装置を開発している。 取り組むテーマは、電力を必要としない空気浄化技術の開発など、オリジナリティの高いものばかりだ。 難しく、ハードな研究に取り組むことで成長できると考える瑞慶覧先生は、日々の教育にも余念がない。 企業経験も活かした、その研究室教育スタイルに迫っていく。

ささいなことから、
現実社会を意識する

研究室教育において、瑞慶覧先生が意識していることとは。 その問いに「学生の発言や行動において気になったことがあると、すぐにはっきりと伝えること」と答えてくれた。 例えば、プレゼンテーションの際の滑舌や声の大きさなど、細かいと思われるような点でも都度、明確に伝える。 これはひとえに、卒業後の彼らを考えた上での工夫だ。 「社会人になってから指摘されたり苦労したりしそうなことは、その前に研究室で気づかせて、直せばいい。 大学にいるうちに意識できれば、それだけ社会に出てからのつまづきが減ると思うんです」と話す瑞慶覧先生。 企業経験も豊富な先生だからこその教育だと言える。今は厳しいと感じている学生たちも、いずれその真意に気づくことだろう。

正解のない未来を
生きるために

実社会を常に意識し学生の教育にあたっている瑞慶覧先生は、研究室のすべての学生に「自分の考えを言う」ことを求めている。 しかし、やはり配属されたての4年生は、自分の意見を言うことができない。 受験勉強の過程で常に正解を求め続けてきたクセは、1人ではなかなか変えることができないのだ。 そんな状況において、先生は「間違ってもいいから、とにかく何でもいいから言ってみろ。 恥かいたってバカにされたっていいから、好きなことを言いなさい」と、地道なトレーニングのように、促し続ける。 するとやがて、少しずつ発言ができるようになるという。 正解のない課題に立ち向かっていくためにも、あらかじめ用意された正解を求める態度ではなく、 自分で考えを模索して、自分の言葉で発信する態度に変化してほしいという瑞慶覧先生の強い信念が、ここにも現れている。

学生同士の密な時間が、
一生ものの力になる

4年次の卒研生をサポートするのは、先生だけではない。 瑞慶覧研究室では大学院生も大きな役割を担っている。 年に7回もあるという研究室の中間発表会。 そこで提出する資料づくりでは、大学院生が4年生の作成したものをチェックして 「これじゃあ先生に日本語になってないっていわれるぞ」などと事前指導がみっちりと行われる。 プレゼンテーションも、相手の関心をひくような発表になるまで、何度も練習を繰り返すという。 「先生があれこれ指示を出すより、時間をかけてでも、自分たちで教え合う方が伸びてくれるんです」と先生は笑う。 このようにハードな研究生活をおくる学生たちだが、ここにも先生の企業時代の経験が生かされている。 会社に入ると「明日までに」など短時間で資料をつくらねばならないことが多い。 そういう場面に出会ったときには、学生時代に一生懸命、時間をかけて取り組んだという経験が一番の力になってくれると、先生は考えている。

ただただ、
幸せになってほしい

空気浄化研究に取り組む瑞慶覧研究室だが、学生たちに対して 「空気浄化の技術を社会に役に立ててほしいとか、そういうことはあまり思ってないですね」と先生は話す。 スキルや専門性の獲得だけでなく、打たれ強さや自らの考えを発露する力など、 どのような人生を歩んでも必要となる力を、研究室で身につけてもらえればと考えているそうだ。 今日も瑞慶覧研究室では、先生や先輩たちとの蜜なコミュニケーションを通して、学生たちが図太く、そして確実に、生きる力を伸ばしている。 「卒業後も幸せに生きていってほしいですね」。 ハードな研究室の裏側には、学生を想う、先生の熱く優しいハートがあった。

このインタビューは、中高生・先生の研究活動を大学・企業で応援する『教育応援2023年冬号・Vol.60』(リバネス出版)に掲載された記事を、出版社の許諾を得て一部改変したものです。

03

学生に問い、自らも問い続ける。

ものづくりの未来を拓くために

工学部
機械工学科 精密加工研究室

今井() 健一郎教授

今井先生は「難削材料」という、削るのが困難な材料の加工を行う研究者だ。チタン合金などの難削材料は、 耐食性や耐熱性に優れていて高い工業的価値を持つが、粘る性質や高い耐熱性から精密な部品に加工することが非常に難しい。 この難題に対して「難しいからこそ、研究・開発に取り組む価値がある」と先生は意気込む。そんな今井先生の研究室教育にかける想いに迫った。

「自分の頭」で考える。
すべてはそこから始まる

卒業研究におけるテーマの決め方は研究室によってさまざまだが、今井研究室では、学生自身が自分のテーマについて考え、 先生に提案するところから始まる。今井先生から指示することはなく、「何をやればいいですか?」と聞いてくる学生には 「簡単に他人の頭を借りるんじゃない」と諭す。すぐに結果が出そうなテーマもNG。「わかっていないこと、難しいことに取り組むのが卒業研究。 僕も答えがわからないようなテーマに取り組んでもらいたいんです」と先生は話す。学生がテーマの種となるアイデアを持ち込み、先生と議論して、 またテーマを考える。それを繰り返していると、徐々に学生の意識も変わってくるという。 「先行研究ではこういったことがわかっていない。これを自分は解明したい。この考えについて先生はどう思いますか?」というように、 自分の意思や仮説を伝え、問いを投げかけるようになるのだ。この段階に達すれば、いよいよ卒業研究がスタートできる。 「自分の頭で考えること。それが研究においても、社会に出て仕事をする上でも重要」。時に2〜3ヶ月をも要するテーマ決めにも、 今井先生の研究室教育における信条が根付いている。

失敗でも成功でもいい。
自分達のアイデアを形にしよう

「自分の頭で考え、難しいことに取り組むからこそ成長できる」。その考えは、学部教育にも生かされている。 機械工学科の3年次に開講される「創造設計ユニット」という講義は、学生5人がチームになり機械設計に取り組むプロジェクト型の授業だ。 ある年のテーマは「本をひっくり返す機械の製作(使ってよいモーターは2つまで)」。限られた部品と予算の中で、 最終的に5冊の本をひっくり返す機械を開発するという内容だ。課題の設定について今井先生はこう話す。 「工夫すればおそらくできるけど、簡単にはできない。教員にも正解がわからない課題を設定するようにしています。 すぐにできてしまうテーマを与えるのは、学生に対して失礼ですからね」。インターネットにも図書館にも、 どこにも設計図や答えがない中で、学生たちは必死に考え、つくり、試し、繰り返す。最後まで失敗続きのチームもあれば、 教員の想像を超えるアイデアが出てくることもある。「うまくいったか、いかなかったか。正直どちらでもいいんです。 自分たちで考えたのであれば、その成功や失敗の記憶が学生たちを大きくしてくれますから」。 

未知に自ら向き合う人が、
ものづくりの未来を拓く

機械工学科を卒業した学生の多くは、メーカー・製造業の業界に飛び込んでいく。社会を支える製品、 まだ世の中にない新しい製品をつくるためにはどうすればいいのか、その難しい問いに向き合い続ける仕事だ。 そこでは常に、自分の意思で取り組み、自分の頭で悩み、自分の手で試行錯誤する力が求められている。 「学生たちが答えを求めてしまう気持ちはわかります。そんな彼ら、彼女たちに、正解のないものづくりに取り組む魅力を発見してもらいたいです。 そのためにどうすればいいのか。それが私たちのテーマですね」。研究者、そして教育者として、今井先生は今日も「自分の頭」で考え続けている。

今井先生は最後に、高校における「探究活動」への想いを語ってくれた。「これまでの授業とは違う、生徒たちが試行錯誤できる学びが広がっていくことに、 大学教員としても期待を寄せています。わからないこと、知らないことに向き合うことの楽しさを感じたなら、その興味を神奈川工科大学で花開かせてほしいです」。

このインタビューは、中高生・先生の研究活動を大学・企業で応援する『教育応援2024年春号・Vol.61』(リバネス出版)に掲載された記事を、出版社の許諾を得て一部改変したものです。

04

ものづくりに向き合う情熱が、

思いやりを持った人を育む

工学部
電気電子情報工学科 照明工学研究室

三栖 貴行教授

三栖 貴行先生は、照明、その中でもLEDを軸にしている研究者だ。 我々の日常生活でもなくてはならない照明だが、微細藻類の培養、微生物の殺菌など、ほかの分野の研究への応用も多い。 その際に、先生が重要視しているのが情熱だ。どのように先生は学生に情熱を伝播させ、自主性を育んでいるのか。その研究室教育に迫った。

LED光で本物の炎の揺らぎを再現

背中を見せて伝えるものづくりへの想い

「そんなに働いて大丈夫ですか」と言われるほど大学の活動に打ち込む三栖先生。大学業務に掛ける情熱は並々ならない。 しかし、自身の業務に没頭するだけでなく、高校生向けにものづくりの楽しさを伝えるワークショップや小学生向けのプログラミング教室といった、 次世代育成にも精力的に取り組んでいる。この姿勢が、研究室の学生へ熱を伝播させている。
意外にも先生自身は学生時代、今ほどものづくりに向き合う情熱を持ち合わせていなかったという。 先生の情熱の原点は、企業で働いていたときに先輩に「中途半端な設計で作ったものを、お客さんが使ってどう思うんだ」と言われ、 ものづくりへの姿勢を改めたことにある。その経験が「学生時代からもっと真剣に、ものづくりに向き合ってほしい」という原動力となり、 学生育成や次世代への教育にも力をいれているのだという。

一人一人に合わせた階段作り

研究室の学生全員が主体的に研究活動を進められるわけではない。それぞれの個性や理解度、興味関心に差があり、 研究テーマも多様だ。そこで先生は、個々の特性や研究テーマに合わせて、研究計画の立て方や実験の進め方などを丁寧に指導する。 この助走のタイミングでは、研究室とは関係ない第三者と関わる機会も設ける。学生たちは先生の助言を受けながら努力を重ね、 結果を出していく。そして第三者からの評価とフィードバックを受けることで成功体験を得る。ある程度基礎が身につき、自信がついた学生には、 次の挑戦を委ねる。「一生懸命頑張ったものを、誰かが喜んでくれるとか認めてくれるってすごく嬉しいことですもんね」と先生は熱弁する。 それぞれの学生にあった成功体験を設計し経験させることで、学生は自主的に研究を進めていく。

「思いやり」の精神を育む

三栖先生はまた、「ものづくりには思いやりが大切」という考え方を伝えることも大切にしている。これは先生が企業にいた時によく言われた言葉だという。 ものづくりをするときには、必ずその「もの」を使う「人」の存在を考慮する必要がある。その「人」がどの様に「もの」を使うのか思いを馳せてものづくりをすることが重要なのだ。 例えば、電子レンジの庫内灯や温め完了時の音は、本来の機能とは直接関係ないが、使用者の「いま中身の状態はどんな感じだろう?」 「温めは完了したのだろうか?」といった不安を解消する役割がある。使う側の視点に立って考える思いやりの心がものづくりには欠かせない。 研究を通してこの考え方を身につけた学生たちは、普段の行動にも「思いやり」の精神を反映できるようになっていく。

「泥臭さ」を大切にする指導

ものづくりにも研究にも正解はない。自分なりに仮説を立てて、試行錯誤しながら取り組む。失敗や達成できないこともあるが、それをどう解決するかを考え、 成功したときの喜びは格別だ。こういった泥臭い体験は、単純に正解不正解の点数で競い合う世界では得られない。 「泥臭くてもいいから自分を変えたいと思っている人は、ものづくりを体験してほしい」と先生は力強く話す。ものづくりの技術を学ぶことは、 人としても大きく成長することにつながると確信している。実際、対人関係が苦手な人や自己主張の激しい人など多種多様な学生とともに、 それぞれの興味に沿った研究を行ってきた。彼らはものづくりを通して思いやりを学び、卒業後それぞれの現場で情熱を持って、活躍しているという。 「多様な学生一人一人に寄り添い、その可能性を最大限引き出していきたい」。それが三栖先生の変わらぬ願いである。

このインタビューは、中高生・先生の研究活動を大学・企業で応援する『教育応援2024年秋号・Vol.63』(リバネス出版)に掲載された記事を、出版社の許諾を得て一部改変したものです。

05

「熱中」から生まれる

「力と自信」が、未来をつくる原動力となる

工学部
機械工学科 知能モビリティ研究室

脇田 敏裕教授

脇田先生が取り組む自動運転に関する研究は、AIのプログラミングやロボットの制作など、様々な専門知識が求められる。 難しい研究テーマであっても学生が熱中して取り組める環境は、一体どのようにつくられているのだろうか。 先生自身の企業での経験も活かした、研究を通して社会貢献しながら成長する喜びを体験させる研究室教育に迫った。

研究を通して人が育つ「成長の黄金サイクル」

学生が社会で活躍する人材に育つための研究室・研究指導とは?その問いに常に向き合う脇田先生は「成長の黄金サイクル」というモデルを掲げている。 それは、自身のテーマに「興味」を持つこと、学生が研究に「熱中」すること、外部に対して積極的に「発表」すること、これらの取り組みを通して「自信」をつけること、 という4つの要素から成るサイクルだ。「研究や技術開発は壁にぶつかることも多く、決して楽なことばかりではありません。 だからこそ、楽しく取り組むことが重要です。自分の研究に面白さや楽しさを見出し、研究を自ら加速させていく体験をしてもらえれば」と脇田先生は話す。 ラジコンレースとAI開発を組み合わせたイベントを国内外で企画しているのも、まずは先端研究の楽しさを知り、興味を広げてほしいという思いがあってのことだ。

熱中できる「良い研究テーマ」を設定するために

「成長の黄金サイクル」を加速させるために一番重要なことは、良い研究テーマを設定することだと話す脇田先生。 楽しく熱中して取り組むことができ、かつ教育的効果や学術的価値の高いテーマを設定するポイントとして金出武雄教授の提唱した「素人発想、玄人実行」 という考え方を挙げてくれた。つまり、専門家ではない人でも直感的に「面白い!」と感じることができ、実際の研究においては高い専門性が求められる、 そんな研究テーマを設定することを心がけていると言う。「例えば、人間の判断なしに衝突を避けたり通行を譲り合う自動運転自動車をつくって、 “信号の要らない社会をつくる研究”をしようと話すと、学生たちも分からないなりにワクワクしてくれます。 データ解析やディープラーニング、AIなどさまざまな専門性を駆使する必要がある難しいテーマですが、このワクワクさえあれば、 どんどん熱中して研究にのめり込んでくれるんです」。

「発表」と「自信」が「熱中」を加速する

脇田研究室では、学会などの外部に研究成果を発表する機会を積極的に設けている。 「企業活動も、ユーザーや社会に受け入れられることが重要です。学会発表を通して、自分の研究の価値をわかりやすく伝え、 評価される経験を積んでほしいのです」と話す脇田先生。長く自動車メーカーで活躍してきた先生ならではの視点と言える。ストーリーの立て方や資料の作り方、 プレゼンテーションの練習など指導にも余念はなく、学生たちが学会で受賞するなど、成果は着実に表れてきている。 外部からの評価は学生の自信となり、研究テーマに対する責任や愛着につながる。責任や愛着を持つと、指示されずとも自ら学ぶようになる。 自信は成長の原動力となるのだ。「成長サイクルが回り始めたら、私の仕事もほとんど終わったようなもの。 あとは学生の興味や熱意に誠心誠意応えていくだけです」と先生は微笑んだ。

楽しく、前向きに未来に挑む人材を育てる

「成長の黄金サイクル」の根幹には、脇田先生自身の経験がある。企業を離れ、神奈川工科大学に着任した際、 移動ロボットのプログラミングについて改めて勉強を始めた先生は、自分の興味あることに打ち込む楽しさを再実感したと振り返る。 「新しい技術を学び、熱中することが、技術者の力が発揮されるための一番の鍵だと感じました。社会課題の解決に対してもネガティブな姿勢ではなく、 未来を創る姿勢をもって、楽しく前向きに取り組んでほしい。それができる人材を育て、送り出していきたいですね」と脇田先生は意気込む。 神奈川工科大学で研究の本当の楽しみに気づいた学生たちが、これからの社会をつくっていく日は、そう遠くないはずだ。

このインタビューは、中高生・先生の研究活動を大学・企業で応援する『教育応援2024年夏号・Vol.62』(リバネス出版)に掲載された記事を、出版社の許諾を得て一部改変したものです。

06

研究室での経験すべてが、

成長を加速させる鍵になる

工学部
応用化学生物学科
環境化学・環境生物研究室

齋藤 貴教授

環境化学・環境生物研究に取り組む齋藤研究室の特徴を一言であらわすならば「学生主体」。学生が自ら学び、研究に取り組み、 その中で主体性を養う環境がつくられている。学生たちと信頼関係を築き、成長を促すためにどのような工夫をしているのだろうか。 先生が長年の経験の中で培ってきた研究室教育哲学を紐解いていく。

学生主体のテーマ選びが、
研究を自分ごとにするきっかけに

深海に暮らす有用微生物を見つける研究、海に流出した油を回収する新素材の開発、医薬成分をもつキノコの研究、 新しい小児向け解熱剤の開発、産地判別のための食品分析など、齋藤研究室のテーマは実にさまざまだ。 研究室配属を控えた3年生が、この多様なテーマの中から選んでいく際の参考とするのが、先輩たちによる研究紹介だ。 4年生が実験やプレゼンテーションを通して、研究内容や難しさ、やりがいを伝えていくもので、実験指導も含めて数週間をかけて行われる。 時間をかけて自分だけのテーマを選び技術を修得するので、愛着や責任感も自ずとわくのだという。「4年生にとっても自分の研究の意義や魅力を再確認する、 良い機会になるんです。みんな思い思いに準備をしてくれて、頼もしいです」と微笑む齋藤先生は、研究紹介の場の前面には立たず、4年生が主役の場としている。 研究テーマ決定後は、4年生から直接実験指導が進められる。これも、学生たちに研究を自分ごとにしてもらうための仕掛けだ。

自覚と責任感が自主的な学びを促していく

研究の遂行においても“学生主体”の意識は強い。たとえば、河川に含まれる環境DNAから生物の分布を調べる研究では、近隣住民と実験を行うことがあり、 その際の実験内容や手順の説明も学生自身に任せている。専門家ではない人たちに正しい情報を伝える必要があるため、学生にリーダーシップを発揮する意識が芽生え、 自分から学ぶようになるという。「他大学や国の研究期間と取り組む研究でも、学生に研究に関わるミーティングや実験に参加してもらいます。 学外の人とのチームにおいて役割を果たしていく中で、”行動力”や”協調性”を養ってもらえれば」。企業において自分ひとりでできる仕事は少なく、 他の人を頼ることも、自分が頼られる存在になることも重要だ。将来に役立つ学びが、齋藤研での日々に溢れている。

指示するという「楽」はしない。
丁寧な対話が学生の成長につながる

研究指導における工夫について聞くと、先生はこう答えてくれた。「『どうしたらいいですか?』と言う学生に対して、安易な指示はしません。 『こういう見方で考えればいいんじゃない?』『こういう実験を加えたらいいんじゃない?』という発展的アイディアにつながるよう動機付け的アドバイスを出すようにしています」。 このようなコミュニケーションを数か月間続けていると、次第に学生に変化があらわれるという。 「『こういう結果が出たのですが、先生ならこう考えるんじゃないかと思って、追加で実験を行っておきました』というように、 僕の研究思考を先読みして行動するようになったときには、成長を実感しますね」と嬉しそうに話す先生は、 具体的な指示を出す方が教員としては早いし、楽だという。「けれども、それでは自分で考える力が身につかないんです」。 未来を見据えて、辛抱強く向き合うことが学生の成長への近道なのだ。

研究を通して自分を知り、自分を伸ばす

「研究は、自分の強みや個性を見つけて伸ばせる機会でもあると思います。それが実現できる研究室づくりができれば」と齋藤先生は話す。 他の人と違う自分だけのテーマに取り組むこと、自分の研究への理解を深めること、学外の人といっしょに研究を進めること、自分の頭で思考すること。 積極的に学会などの場で研究発表すること。リーダー的意識を養いその役割を身に付けること。研究室でのひとつひとつの経験が学生たちの糧になっていく。 そんな齋藤研究室には、卒業生が訪ねてくることも少なくない。「この研究室で学んだことが仕事に生かされていると聞くと嬉しいですね。 先日、高校に務めている私の研究室開設1期生が、自分のクラスの生徒を連れて研究室見学に来てくれたんです」と頬を緩めた。 先生の研究室教育の成果は、確かに未来につながっているようだ。